第一線で5年~10年とキャリアを積み、一通りの業務を「こなせる」ようになった実感がある。そんな中堅エンジニアの皆さんに、あえて問いかけたいことがあります。
「今、あなたが持っているその技術は、5年後もあなたを支え続けてくれますか?」
一つの技術を深掘りし、会社にとって欠かせない存在になることはエンジニアの美徳です。
しかし、現在の開発の現場や技術の進歩は、私たちの想像を超えるスピードで加速しています。
昨日までの「常識」が、ある日突然「旧式」に変わる。そんな場面を、あなたも一度は目にしたことがあるはずです。
本記事では、中堅世代が直面する「スキルの固定化」というリスクを乗り越え、あえて未知の領域に手を伸ばすことで、エンジニアとしての寿命と価値を劇的に伸ばすためのマインドセットをお伝えします。
「自分の担当はここまで」という線を一度取り払い、変化し続けるための「二度目の脱皮」を、今ここから始めましょう。
技術の「賞味期限」とは
一つの技術を極め、阿吽(あうん)の呼吸で業務を回せるようになる。それはエンジニアとして一つの「完成形」かもしれません。
しかし、私たちが生きているのは、かつてないほど技術のサイクルが早い時代です。
かつては「これさえ知っていれば一生安泰」と言われた規格や工法が、数年でより効率的な新しい技術に取って代わられるのを、私たちは日々目の当たりにしています。
「AIが代われない」仕事はまだまだ多くありますが、仕事自体はなくならなくとも、自分より若いエンジニアが新技術を活用することで急成長し、相対的に自身が持ち合わせている技術の価値が下がることもあります。
「経験」が「足かせ」になる瞬間
5〜10年というキャリアは、確かな「自信」を与えてくれますが、同時に「今のやり方が一番正しい」という固定観念も生みます。
- リスク1: 過去の成功体験に縛られ、最新の効率的なツールや手法を「自分には関係ない」と遠ざけてしまう。
- リスク2: 自分の専門外のトラブルが起きたとき、「それは自分の分野ではない」と線を引くことで、成長の機会を自ら捨ててしまう。
仕事をしている中で、こういった固定観念を持っている技術者は多いのではないでしょうか。
進化しないことは、相対的に退化しているのと同じ
周囲が新しい技術(AI、DX、新素材、新工法)を取り入れ、データベースをアップデートし続けている中で、自分だけが10年前の知識のまま止まっていたらどうなるでしょうか。
技術に「賞味期限」がある以上、現状維持はエンジニアとしての価値の減少を意味します。
大切なのは、今持っている技術を捨てることではなく、その上に「新しい領域を積み上げ続ける柔軟性」を持つことです。
ガラパゴススキル とポータブルスキルとは?
中堅と呼ばれるキャリアになると、社内のルールや特定の設備、人間関係に精通し、仕事がスムーズに進むようになります。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。そのスキルは、一歩会社の外へ出たときにも通用するものでしょうか。
エンジニアとして「仕事ができる」状態には2つの種類があります。
それは、今の場所だけで輝くスキルか、どこへ行っても通用するスキルか、です。
「ガラパゴススキル」――その場所だけの最適化
特定の環境に深く適応しすぎた状態を指します。中堅になると陥りやすい罠です。
- 社内独自のルールや慣習: 「この書類はこの順番で回さないと通らない」といった、他社では1円の価値にもならない知識。
- 特定メーカー・特定型番への依存: 基礎理論を飛ばして、特定の機材の「クセ」や「操作手順」だけを覚えている状態。
- 属人化したトラブル対応: 「理由はわからないが、あそこを叩けば直る」といった、再現性のない経験則。
もちろん、どのような会社・業界でも「ガラパゴススキル」はあります。
不要な要素をショートカットできるなど、当然メリットもあり、組織の所属する以上は、必須の知識です。
しかし、あくまで「社内のみ」で適応できるスキルであり、あなたの市場価値が上がるものではないことがほとんどです。
「ポータブルスキル」――持ち運び可能な「武器」
環境が変わっても、あるいは技術のトレンドが変わっても、価値を失わない本質的なスキルです。
- 物理的な原理原則の理解: 特定のソフトの使い方ではなく、その計算の根拠となる「内線規程」や「物理法則」を理解していること。
- 抽象化された課題解決能力: トラブルに対して「なぜ起きたのか」を論理的に切り分け、構造的に解決するプロセス。
- 未知への適応力: 「自分の専門外だから」と拒絶せず、手持ちの基礎知識を応用して、新しい分野を最短でキャッチアップする技術。
基礎技術や汎用性が高い、どこでも使える技術を「ポータブルスキル」と呼びます。
よく「食いっぱぐれない資格は?」などを説明している記事が多くあります。
そこでは「簿記をとった方がいい」とか、「宅建をとりたい」などが頻繁に話に上がります。
これはスキルの高さ云々より、汎用性の高さで話題に上がることが多いのです。(※個人的に「食いっぱぐれない資格」レベルは、医者や公認会計士などのエキスパートのみ該当すると思っています)
【強者が持つポータブルスキルの正体】専門外を繋ぐ「技術を繋ぐ力」こそが最強の武器
では、とにかく関係ない分野を学べばよいのか?と思ってしまいがちですが、ポータブルスキルを活用し、卓越した技術者になるためにはコツがあります。
それは「10%の学習と技術の橋渡しを意識する」です。
「ポータブルスキルをものにするため、専門外の知識を身に着けよう!」といって簡単にできれば苦労しないものです。そもそも実際に複数の技術を身に着けるのは、簡単な話ではありません。
たった10%で意味があるのかと思うでしょうが、これが最大の武器となります。
専門外の「10%」が、スキルの可搬性を高める
一つの専門分野に閉じこもっていると、その環境(会社やプロジェクト)が変わった瞬間に立ち往生してしまいます。
- ガラパゴス化: 自社の専門用語でしか会話ができず、他部署や他社の人間と意思疎通ができない状態。
- ポータブル化: 隣接分野の基礎中の基礎(たった10%の知識)があることで、どんな現場でも「共通言語」を使って状況を把握できる。
ポータブルスキルを持つ人材は、その技術者が全てを賄うのではなく、あらゆる分野を繋げることができる人材と見られます。
あらゆる技術は「点」を結んだ「面」から構成される
専門知識は、単体ではただの「点」です。しかし、専門外の知識を少しだけ重ねることで、それは「面(領域)」としてのスキルに昇華されます。
昨今は通信技術が進化していますが、電気機器を扱う以上そこには電気の知識があり、配線する環境に対する建築・土木的な知識も絡んでいます。
1つの分野が特出した技術者は大勢いますが、異なる技術を繋げられる人材は一握りです。
前のセクションで簿記や宅建などに触れましたが、自身が今持つスキルと少しでも重なる部分があれば、十分に協力なポータブルスキルとなります。
逆に、まるで関わりがない・繋がりが思いつきもしないスキルは、いくら汎用性が高くても、あなたの価値が上がるものにはなりません。
圧倒的な差を生む「越境するエンジニア」
多くのエンジニアは「自分の担当範囲」を守ることに必死です。だからこそ、あえて専門外に手を伸ばすだけで、あなたはその他大勢から抜け出すことができます。
専門外を「知っている」だけで、会議での発言の重みが変わり、トラブル解決のスピードが劇的に上がります。
「技術を繋ぐ力」というポータブルスキルを持つ人は、市場価値が下がることがありません。
【ガラパゴススキルとの向き合い方】意識で変わる仕事の価値
実際仕事にガラパゴススキルは当然あります。市場価値があがるものではないとお話しましたが、
このスキルも磨き方によっては、他者と大きな差となり、ガラパゴススキルに留まらないスキルに昇華することができます。
「いつもの作業」に「なぜ?」を1回だけ足す
毎日行っている点検や設計のフロー。これを「いつものこと」で終わらせず、一度だけ「なぜこの基準になっているのか?」と疑問を持ってみてください。
- 第一歩: 思考停止でマニュアル通りに数値を打ち込むのをやめる。
- 昇華: 「この数値の根拠は何だ?」と疑問を持ち、その一瞬だけ机に戻って仕様書や文献に手を伸ばす。 この「実務での疑問」→「机での確認」という短い往復こそが、最も記憶に定着する学び方です。
「理論」を「現場の武器」に変える
ガラパゴススキルとポータブルスキルが一線を画す最大要素は、「根拠の有無」です。
逆に考えると、しっかりとした根拠さえあれば、ガラパゴススキルは応用が効く、ポータブルスキルへ生まれ変わります。
- ガラパゴス: 理由もわからず「前もこうだったから」で対処する。
- ポータブル: 忙しい合間を縫って確認した「根拠・理屈」を、後輩や他部署に説明してみる。 「抽象化して伝える」というアウトプットは、机で得た知識を一生モノのスキルに変えてくれます。
日々の仕事をどのように重ねるかによって、同じ時間でも身につくスキルは大きく異なります。
【まとめ】進化し続けることがエンジニアの最強の生存戦略
5〜10年目というキャリアは、技術者としての「本当のスタートライン」です。積み上げてきた専門性を土台にしつつ、今までのスキルとどう向き合うか、その外側にある「未知」をどれだけ取り込めるかで、この先の10年の景色は大きく変わります。
「慣れ」を捨てる
特定の会社や現場でしか通用しない「ガラパゴススキル」に安住せず、どこへ行っても重宝される「ポータブルスキル」への昇華を意識しましょう。
- 具体策: 実務の「手順」を、内線規程や物理法則などの「原理原則」に紐付け直す。
- 専門外の「10%」があなたを唯一無二にする
すべてを極める必要はありません。隣接する分野の基礎知識(共通言語)を持つだけで、あなたは技術者同士を繋ぐ「通訳者」となり、圧倒的な希少価値を手に入れます。
現場と机上を往復し続ける
「現場での気づき」を「机上での理論」で裏付ける。この泥臭い往復こそが、あなたのスキルを本物へと鍛え上げます。忙しいからこそ、5分の「なぜ?」を大切にしてください。


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